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  • 2020.05.14
  • トレンド・考察

バスって環境にやさしいの?

 当たり前を考える

4月8日から7都道府県に適用された新型コロナウイルスの感染防止に向けた「緊急事態宣言」により、該当地域では電車やバスに乗って仕事や学校に行く、週末にデパートやモールにショッピングに行くといったこれまで当たり前であったことを自粛しなければならなくなりました。当たり前であることは、案外当たり前ではなかったようです。テレビでバスを乗り継ぐ番組を見て、今年のゴールデンウィークはどこにも行けないのかとちょっと憂鬱になります。同時に、バスは都市部だけでなく、ほんとにきめ細かい路線網で山間部での重要な移動手段になっていることに感心したりしています。

さて、国内で走っているほとんどのバスはディーゼルエンジンを使用しています。ディーゼルエンジンというと、一般的には燃費は良いけど、粉塵を出し環境にやさしくないと思われているのではないでしょうか。自家用車がハイブリッドそしてEVへと移行しようとしている現在、バスは遅れているのではないか、きっとバス運行会社が燃料費を節約するためにディーゼルエンジンを使用しているのではないかと疑う方もいるかもしれません。そして、そんなことは当たり前だから、疑問に思ったことはないという方もいらっしゃると思います。

当たり前のことが、当たり前ではなくなった今、改めてバスの環境について考えてみたいと思います。

交通機関による環境に対する影響

自動車の環境問題といえば、やはり排気ガスです。排気ガスでは、窒素酸化物(NOx)と粒子状物質(PM)が有害物質として規制対象となっています。

NOx:NOxとは、とは、物が高い温度で燃えたときに、空気中の窒素(N)と酸素(O2)が結びついて発生する、一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)などのことをいいます。

とくに二酸化窒素(NO2)は、高い濃度のときに人の呼吸器(のど、気管、肺など)に悪い影響を与えるので、国では二酸化窒素(NO2)に関する環境基準を設けて、排出量を少なくする努力をしています。 また、窒素酸化物は、光化学スモッグや酸性雨の原因にもなります。

PM:PMとは、固体及び液体の粒のことをいい、工場などから排出されるもの(ばいじん)や、物の粉砕などによって発生するもの(粉塵)、ディーゼル車の排出ガスに含まれるもの(黒煙)などがあります。PMは天気予報などで発表されるPM2.5分布予報 でご存じかもしれません。PMも呼吸器への悪影響や発がん性の問題があります。また、花粉と結びつき花粉症を悪化させるという問題も指摘されています。ちなみにPM2.5とは2.5マイクロメートルのことで、1ミリの1000分の2.5という極小サイズの粒子状物質のことです。

そういえば、昔のバスはマフラーから加速時に黒いけむりが出ていましたが、最近はみません。これは、平成21年から施行された「ポスト新長期規制」と呼ばれる厳しい排気ガスの規制が導入されたことによって、ディーゼルエンジンのクリーン化が進んだことによります。

でも、最近は地球温暖化対策としてNOxやPMに加えて二酸化炭素(CO2)排出量の削減が強く求められるようになりました。運輸関連のCO2排出量は、2017年度における日本の二酸化炭素排出量(11億9,000万トン)のうち、17.9%(2億1,300万トン)を占めています。

図1は交通機関交通機関ごとに同じ輸送量あたりのCO2排出量を表したものです。鉄道が最も排出量が少ないのですが、バスも航空や自家用車に比べてCO2の排出量は少なくなっています。

 

図1:バスの二酸化炭素排出量

出典:国土交通省のホームページ

電動バスは普及するか

CO2削減のため、自家用自動車では、少し前は欧州を中心にガソリンエンジンよりもCO2排出量が少ないディーゼルエンジンが注目されていましたが、現在では欧州も含めて世界的に電気自動車(EV)へのシフトが始まっています。現在多くの国や都市がガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車の新車販売を停止しようとしています。東京都でも2040年を目標とすることが発表されています。

では、バスはどうでしょうか。残念ながら、現在国内で走行しているバスの9割以上はディーゼルエンジン車で、EVは実験的な導入のみで、ごくわずかという状況です。実は、世界的に見てもEVバスは普及しておらず、普及が進んでいるのは中国ぐらいです。中国のシリコンバーと言われIT産業で有名な中国の深セン市ではEVバスの普及率が100%と言われています。中国以外でもEVバスをもっと普及させようとしており、日本でも国土交通用は平成30年12月に「電動バス導入ガイドライン」を出して、普及促進を図ろうとしています。しかし、EVバスを普及するためには、ディーゼルエンジン車に比べて割高なバスの購入費用、充電ステーションの設置費用など多額な費用がかかりますが、バス運行会社は増加コストを簡単に運賃に上乗せすることもできないため、国や自治体から金銭的な補助が無ければ、簡単には移行できないというのが実情です。

EVは本当に環境にやさしいのか?

EVはバッテリーに蓄積された電気を使ってモータを回して、車輪を駆動するので、走行時にCO2はもとよりNOxやPMなどの有害物質を含む排気ガスも出さないことから、環境にやさしいと考えられています。しかし、蓄電するための電気が火力によって発電されている場合はどうなのでしょうか。そこで、出てきたのが、ライフサイクルでCO2排出量を評価する「LCA(Life Cycle Assessment)」という考え方です。

2019年3月、環境規制で世界をリードしてきたEU(欧州議会と欧州委員会)は、自動車の生産やエネルギー生成、走行、廃棄、再利用などのCO2排出量の総和を評価するLCAについて検討することを当局に要請しました。LCAとは、ある製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル)又はその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法です。(図2)。LCAについては、ISO(国際標準化機構)による環境マネジメントの国際規格(ISO14040シリーズ)の中で、規格が作成されています。

 

図2:LCAによるCO2排出イメージ

出典:国立環境研究所 循環・廃棄物のまめ知識「ライフサイクルアセスメント(LCA)」

 

LCAで評価した場合、果たして本当にEVは環境にやさしいのでしょうか?

マツダと工学院大学が協力して作成したレポートでは、ガソリンエンジン車(現行マツダ3)と他社のEV(スペックからe-Golfの可能性が高い)を比較しています。このレポートでは車の寿命を20万km走行として、16万kmでバッテリー交換をするという条件で比較しています。レポートでは 日本、欧州、中国、米国、オーストラリアの5地域でLCAによる内燃機関自動車とBEV(電気自動車)のCO2排出量の算定をおこなっており、地域によって結果が異なっています。これは地域ごとに発電時のCO2排出量が異なっているからです。

日本では、 最初はガソリンエンジンの方が排出量は少ないのですが11万511kmでEVが逆転します。しかし、バッテリー交換を行う16万kmで再びガソリンエンジンが逆転するという結果になりました。中国も日本と同様で、最終的にはガソリンエンジンの方がCO2排出量が少ないという結果になりました。一方、米国では6万779kmでEVの方が排出量が少なくなると、逆転は起こらず20万kmまでEVの方が排出量は少ないままとなります。欧州でも、EVの方が排出量が少ないまま推移する結果となりました。

つまり、LCAで見た場合、必ずしもEVの方が環境にやさしいわけでないという結果になります。日本や中国など火力発電の比率が高い国はガソリンエンジンが有利になり、太陽光発電など再生可能エネルギーや原子力発電の割合が高い国ではEVが有利となるのです。

残念ながら、バスでの比較でないので、この結果からEVバスが環境にやさしくないとは単純には言えませんが、CO2排出量を低減させるには、単純に走行時で考えるだけでなく、LCAで考えるべきだと思います。そして、EVであろうとガソリンエンジン車であろうと、自家用自動車は環境負荷が高いものであることを認識し、なるべく公共交通の利用を心掛けることが重要なのです。現在は自粛が求められますが、新型コロナウィルスが落ち着いたら、のんびりとバスの旅に出かけてみたいものです。

 

生熊 清司

外資系IT企業やコンサルティング会社を経て現在はインサイトテクノロジーというIT企業でマーケティング部門を率いています。趣味で車とITをテーマに自動車雑誌にコラムを執筆したりしています。兵庫県西宮市生まれの58歳。